保存庫-シナリオ棟-

シナリオ閲覧用のページ

CoCシナリオ「侵食する狭間」

「侵食する狭間(しんしょくするはざま)」 シナリオ概要ページへ戻る



01:はじめに


このシナリオは「クトゥルフの呼び声クトゥルフ神話TRPGー」
       「マレウス・モンストロルム」
       「キーパーコンパニオン 改訂新版」に対応したシナリオです。
舞台は異世界の屋敷、推奨人数は1~4人程度。
*推奨技能:<目星><図書館><ナイフ>
*使い所のある技能:<心理学><聞き耳><英語>

 <あらすじ>
 目が覚めると知らない天井だった。
 外へ出る道は閉ざされている。
 異質が交じわる屋敷の中で、迫る災厄に探索者は抗うことと成る。

 

     ( 目 次 )

     01:はじめに
     02:シナリオ背景
     03:1階(導入)
     04:1階(探索)
     05:2階(階段手前)
     06:2階(奥の部屋)
     07:寝室の中
     08:結末
     09:その他補足や裏話


 

02:シナリオ背景


●屋敷の正体
屋敷へと探索者を呼び込んだのは、無貌の神ニャルラトテップだ。
屋敷は「宿主」(マレモンP.210)に選ばれた犠牲者の精神世界である。
宿主はニャルラトテップの依代であり、地球に顕現する手段の一つだ。

犠牲者は依代への変容は最終段階へ来ており、完成する一歩手前。
精神の侵食状況は汚泥として現れ、精神世界を彷徨う探索者たちを追い詰める。
汚泥が完全に屋敷を満たす時、依代は完成し邪神は顕現する。

探索者は限られた時間内に、奇怪な屋敷と邪神の思惑から抜け出さなければならない。


▼犠牲者と偽物
犠牲者は「コニー・フォン・ピンタースコット」博士、オカルティスト兼古物収集家である。
彼女はアーティファクト【トートの短剣】を所有しており、それが邪神の目に止まった要因だ。

シナリオ中、探索者は同名の少女と接触する。
少女の姿は博士本人の子供時代のものだが、正体は無害な子供の仮面を被った邪神である。
邪神の狙いは、探索者に自身の招来を手伝わせること。そのための一見無害な姿である。




●邪神の思惑
博士が宿主へと変容し終われば、邪神は「浮き上がる恐怖」として現実世界へ顕現を果たす。
ギリギリで己を保っている博士だが、その自我もきっかけ一つで崩れる。
精神世界の博士殺す──【トートの短剣】で突き刺す事で、それは成し得る。
邪神の目論見は、探索者に博士を殺す役割をさせることだ。

邪神は現実世界で顕現した「浮き上がる恐怖」により、探索者が絶望する様を楽しみにしている。
もし探索者が博士を殺さなくとも、時間が来てしまえば条件は満たされる。
「浮き上がる恐怖」顕現する場所は、探索者たちの現住所にしても構わない。

対して探索者は、邪神を退散させなければこの思惑からは逃れられない。
邪神の退散は【トートの短剣】を使うことで可能である。
【トートの短剣】はニャルラトテップに効果がある、稀なアーティファクトである。
効果はニャルラトテップの現在の肉体を消し去り、召喚されるまで地球から退去させる。
無抵抗者の仮面を被った邪神へも、効果があるのは変わりない。




●時間制限
精神世界の侵食具合は、黒い泥で表される。
目視の確認が最も分かりやすい。
《聞き耳》を行えば、泥が溢れる際の「ゴボゴボ」という音を聞き取れる。

▼時間経過と黒い泥の量
・10分→ <流し台から黒い泥が溢れ出す。>
・15分→ <黒い泥がリビングの床を覆い尽くす。>
・20分→ <玄関まで流れ出ており、階段前の扉にはまだ届いていない。>
・25分→ <玄関は黒い泥で溢れてしまった。>
・30分→ <1階の床を覆ってしまうほど溢れてしまっている。>

 『リビングからは泥が溢れる音が激し聞こえてくる。
  階段を上らなければ、足が泥で埋まってしまういそうだ。』
 ※以降は1階の探索は不可能になる。

・35分→ <階段が黒い泥で浸り始めた。>
・40分→ <階段の1/3辺りまで浸ってしまった。>
・45分→ <階段の中程まで黒い泥が届いている>
・50分→ <もう2階の床まで届きそうなほど黒い泥で満たされている。>
・55分→ <黒い泥が2階まで届いてしまった。>
・60分→ <2階まで届いた泥が、波を打ちながら溢れだした。>
 ※以降はほぼ時間切れ

他の部屋の扉を開いて置くなどすれば泥は分散し、最大10分ほど時間を延ばせる。
時間は伸ばせるものの、泥の効果で火傷は負うことになるだろう。
時間切れは【07:寝室の中(結末の選択)~結末3】へ移行する。



 

03:1階(導入)


●目覚め
どこからかゴボゴボと音が聞こえてくる。
堅い床の寝心地の悪さから目を覚ますと、探索者は見覚えのない部屋にいた。
か弱い照明はチリチリと消えかけ、部屋を薄暗くも照らしている。
部屋を見渡すと、赤黒い繊維がどこもかしこも蔦(つた)が覆っている。
繊維は肉のようにも見え、窓さえ覆い外の風景は見えそうにない。




●リビング
この室内にはリビングらしく、大きなテーブルとセットの椅子がある。
壁際に食器棚や冷蔵庫、カウンター奥にはキッチンが備え付けられている。
移動できそうな場所は、廊下へ続く出入口だけのようだ。

テーブルには何もない。枯れ腐った花がコップに挿されているだけだ。
備え付けの椅子は4脚ある。
<「椅子」耐久:15 ダメージ(1d6+db) 射程:タッチ 技能《杖》>

冷蔵庫の中は、窓の外を覆う肉繊維と同じもので満たされている。
食器棚を調べると、引き出しに【鈍色の鍵】が入っている。
鍵は1階のもう一つの部屋である図書室の扉の鍵だ。


▼肉の蔦
赤黒い筋繊維のような蔦は、窓だけでなくあらゆる場所を覆ってしまっている。
窓ガラスを割って肉の蔦を切ろうとしても、層が厚く除去することはできない。
また、繊維を切ると金属を急速に腐蝕させる透明な液体が断面から流れ出る。
この腐食液は普通の金属ならば触れるだけでボロボロにしてしまうだろう。
火で炙ったり、電気で焦げさせると鼻をつんざく刺激臭が漂う。
この匂いを嗅いだ探索者が[CON×6]に失敗すると、数分間は嘔吐をもよおし動けなくなってしまう。


▼キッチンと泥
リビングにいる間は、キッチンから「ゴボゴボ」と言う音が聞こえてきていると分かる。
キッチンを見ると、排水口からどす黒い泥が溢れでている。
黒い泥は止むこと無く溢れ続け、底なし沼ができそうな勢いだ。
泥が溢れる勢いは、焦燥感を掻き立てるほど段々と増している。

泥にふれた場合、《アイデア》等を行うと次のことを察する。
泥に触れるととても熱く、長く触りすぎると火傷を起こしてしまう。
触れる部位範囲が広いほど麻痺を起こしやすく、体半分も泥に埋まれば自力で動けなくなるだろう。
探索者は、泥で満たされる前に脱出方法を見つけなければならない。

流し台下の収納には包丁1本が収められている。
もし包丁がまだ無いか聞かれたならば、収納箇所は2つあるが1本だけだと伝える。
<「料理包丁」耐久:9 ダメージ(1d4+db) 射程:タッチ 技能《ナイフ》>


 

04:1階(探索)


リビングから廊下へは扉がない。
廊下は木製フローリングで、歩くたびにギシギシと音がする。
床は玄関側へ少し傾いているらしく、黒い泥がリビングから溢れた際には玄関側へ流れる。


▼少女との遭遇
廊下の扉前を通ると、室内から扉を「ドンドン!」と叩く音がする。
探索者が反応を示せば「助けて! 開かないの!」と少女の声が呼びかける。
内側の鍵は肉の蔦がまとわりついており、少女の力では開かないらしい。

扉をよく見ると鍵穴があり、食器棚の引き出しにあった【鈍色の鍵】が使える。
或いは図書室の扉は耐久3なので、壊そうと思えば壊せるだろう。

閉じ込められていた少女の名前は「コニー・フォン・ピンタースコット」、12歳の少女だ。
不安そうな表情を浮かべ、探索者たちと同じようにいつの間にかこの部屋で寝ていたと言う。


▼違和感
扉を開いてからドアノブを確認すると、肉の蔦は纏わりついていない。
コニーに聞けば「ドアが開く瞬間に蜘蛛の子を散らすように逃げていった」と言う。
部屋の隅を見れば、肉の蔦はこの部屋にも蔓延っている。


 <※KP情報※>
 この少女は黒幕である「ニャルラトテップ」が、本物コニー博士の幼少期の仮面を被った姿である。
 出身地はアメリカのボストン。
 身寄りがなく孤児院で暮らしで両親の顔は知らないという設定で演じている。

 扉の内鍵は普通に開くことができ、少女こと邪神はあえて扉が開かないと嘘を吐いた。
 邪神が探索者の気を引くために言っていたに過ぎない。
 探索者が扉を気にすれば、コニーへ疑心を持つかきっかけになるだろう。

 本物の「コニー・フォン・ピンタースコット」は40代の博士である。
 博士は2階の寝室で半分化け物となって虫の息である。
 少女の目的は探索者たちに【トートの短剣】を使って、本物のコニー博士を殺させることだ。

 探索者が心理学対抗に勝てば、現状を楽しんでいると分かるだろう。
 失敗したら「怖がっている」「強がっている」など普通の少女らしい感情だと思わせる。
 瞳をのぞき込むと、青い瞳はどこまでも続く底なし沼のようだと感じる。
 底なしの瞳を覗きこんだ探索者は(1/1d3)のSAN値チェックが発生する。
 (心理学を使うかどうかはKPの気分次第でOK。)


★「少女 コニー・フォン・ピンタースコット」無抵抗者を演じる神
STR:12 CON:19 DEX:19 APP:10 POW:100 INT:86 SIZ:08
HP:14 MP:100 db:0
――――――――――――――――――――――――――
[技能]心理学:85%(対抗用)
[武器]なし
[装甲]怪我をすると傷口は出来るが、暫くするとすっかり癒えている。
[呪文]KPが望む呪文はすべて使えるが、使おうとしない。
*あくまで誘導するだけの傍観者を演じているため、余程のことがなければ攻撃はしない。
*疑う理由もなく探索者が少女を殺そうとすると、ニャルラトテップの姿へと変わって皆殺しにする。




●図書室
注意点として、書庫の扉を閉めると浸泥(30分経過)後は扉を開けれなくなる。
その場合は扉を破壊することでしか入れない。

図書室はリビングより広そうだと分かる。小難しい専門書が多い。
《図書館》に成功すると<一番奥の本棚から【手書きの論文】を見つける。>
最初に本の内容文を目にした探索者は《幸運》を振る。この判定は最初の一人のみが対象となる。
内容を確認するには《英語》に成功する必要があるが、幸運に成功すれば必要はない。
【手書きの論文】は、最後の挿絵だけなら制限なく誰でも見ることが出来る。


▼幸運失敗時の情報入手
《幸運》に失敗した場合は、通常通り《英語》ロールに成功しなければならない。
ロールして解読する場合は成功、失敗に限らず時間経過は(1d3)×10分間である。
論文は部屋から持ちだして読んでも構わない。
ただし<知覚できない文章>の内容は、全く理解することが出来ない。
知識の有無の問題でなく認識できないためだ。


▼幸運成功の情報入手
《幸運》に成功した場合、どの国の出身であろうと内容を理解できてしまう。
論文は英語で記されているが、文面を目で追うだけで内容が頭に入ってくるのだ。
英語を扱える探索者であろうと、目で追うだけで瞬時に内容を理解できるのは若干の違和感を感じるだろう。

『論文の字を目で追った瞬間、 知るはずのない知識がどっと頭へ流れ込む。
 情景すらありありと浮かび、走馬灯を錯覚させ、冒涜的な何かに触れそうになった。』
探索者はなだれ込む知識の感覚に(0/1d3)の正気度喪失が発生する。

該当探索者へは【手書きの論文】の内容が情報開示される。
正しい情報を得られるのは、上記の知識の違和感を体験した探索者のみである。
口頭で情報共有も可能だが、<知覚できない文章>だけは伝えることができない。


▼<走り書きのメモ>
論文を読んでいると<【走り書きのメモ】が滑り落ちる。>
内容を知るにはは《英語30%以上》あれば自動成功、それより低いならば判定ロールが必要となる。
『恐ろしき知識は、忌まわしき世界へ足を踏み入れるきっかけとなる。
 故に、抵抗する手段にもなるだろう。』


▼<手書きの論文>
『エジプト史の神々』

『エジプトは多神教とされているが、崇拝されてきた神々の多くは全て一柱の神だったという間接的一神教説を推進する。この神はあらゆる姿を模すことが出来るとされ、時に崇拝者たちへ知恵をほどこし、時に忌まわしき試練を与えたとされている。』

『姿の一つ「トート神」は、エジプトの民へ知恵を施した神として名を挙げられる。トートは月と知識にまつわる魔術の神であり、暦、年表、時間に対しても支配を及ぼしている。彼は使者の導き手にして助力者でもあり、魔術の知識と秘儀を崇拝者に授けたとされている。』

『トートは不思議な宝物を人々へ遺している。「トートの短剣」と呼ばれる宝物は、トート神自らへも強い影響を与える。この短剣は真鍮の柄と銀の刃からなり、決して壊れることはなく、人の手に負えない恐ろしき怪物を傷つけることも出来ると伝えられている。

『だが強大なる神の名を関する宝物は、その名を誇示するかの如く、所有者を呪い殺す力もつ。この呪いを打破するためには――』

『(長々と文章が書かれているが、知覚することが出来ない。)』

更に文字がかすれて読むには困難な文章が続くが、断片的に判読した。
『この神は――――ないとされ、およそ人間が―――――であろう――限界を超えた――を――、
 ――――に限らず――各地の――や伝承へ――するほどの――――力を――のだという――に至った。
 神の――短剣の――――から――――――――であろうと――した。』
最後のページに挿絵があり「鳥の頭を持つ大柄な男が書き物をしている絵」が描かれている。

最初に幸運成功した探索者のみ、これは普通の人間が知ってはならない知識だと直感してしまう。
冒涜的な知識に触れたことで(1/1d6)の正気度喪失が発生する。


 <※KP情報※>
 「知覚できない文章」はトートの短剣を安全に入手することができる情報だ。
 この特別な知識は、最初に読んだ探索者だけが知ることができる。
 得た内容は感覚的なため、口頭による伝聞は行えない。
 無理に伝えようとすると、声がつまり涙が溢れるほど口には生理的嫌悪感をもよおす状態に陥る。

 最後の断片的な文章の全文は、以下のようになっている。
 『この神は顔を持たないとされ、およそ人間が認識できるであろう数の限界を超えた仮面を被り、
  エジプトに限らず世界各地の神話や伝承へ関与するほどの多大なる力を持つのだという考えに至った。
  神の名は短剣の象形文字からニャルラトテップであろうと推測した。』


 

05:2階(階段手前)


階段を上がって2階廊下に着くと、3つの扉がある。
しかし一つだけ肉の蔦が扉に張り巡り、開きそうにない場所がある。


●階段近くの扉
扉は肉の蔦にまみれて開かない。
扉自体は脆いが、目に見えない力と、肉の蔦の層により素手やそこらの武器では開くことは不可能だ。

扉へ《聞き耳》をすると、以下の現象が起こる。
『耳を近づけると、ブツブツと何かを呟くような声の後に、脳を突き刺すような叫び声がした。
 叫び声は鋭い痛みを耳の奥まで感じさせる強烈さだった。』
この叫び声により探索者は暫くの間《聞き耳》など、耳を使う行動に制限が入る。


 <※KP情報※>
 扉を開くためには展示室にある【トートの短剣】を持ってくる必要がある。
 【トートの短剣】ならば腐食しないため、肉の蔦を切り裂くことも可能である。
 同時に装甲を無視できるので、短剣で3点ダメージを与えれば扉を破壊することも可能だ。
 寝室内の説明については別途記載する。→【07:寝室の中】

 耳への制限はKPが好きに度合いを決めて良い。
 この叫び声は、室内にいる変容しかけの宿主(博士)が出したものである。
 完全に変容した宿主の叫び声ならば、探索者は聴覚を永久に喪失する。





●書斎
元は整っていただろう書斎が、資料の類で床に散らばっている。
【本棚】に並べられた本の背表紙は引き裂かれ、【机】はインク瓶が倒れ黒にまみれている。

書斎の本棚へ《目星》か《図書館》をすると<【誰かのアルバム】を発見する>
机の上は【写真立て】が特にインクの手形まみれになっているのが分かる。
机には引き出しもあるが、鍵がかかっていて開かない。


▼<誰かのアルバム>
セピア色の古ぼけた写真が納められている。
ページをめくっていくと、探索者に同行している少女とそっくりの写真がある。
写真のそばには本人が言っていた通りの名前が綴られている。
更にページをめくると、コニーと思しき少女の成長記録が続いている。
40代半ばの皺が刻まれた女性へ成長したところで、写真の記録は止まっている。


▼<写真立て>
家族写真が飾られている。コニー少女は写っていない。
40代の女性に寄り添う男性、それに息子と娘らしき子供が二人写っている。
【写真立て】を更に調べると、中に【銀色の鍵】が入っている。
【銀色の鍵】は書斎机の引き出しの鍵である。


 <※KP情報※>
 写真の情報は、探索者に本当のコニー博士は誰かを判別するためのヒントである。
 写真を見た探索者であれば、異形となった博士から写真の面影があると気づく可能性が生まれる。
 少女こと邪神へ写真について尋ねても「知らない」「分からない」といった返答しかしない。


▼机の引き出し
解錠して引き出しを開くと【誰かの手記】が収められている。こちらもインクまみれだ。
文章は《英語》で書かれているが、最初に読んだ探索者は解読の必要がない。
図書室の本と違う点として、《幸運》を振らずとも情報が開示される。
なだれ込む知識の違和感に(0/1d3)の正気度喪失は、同様に発生する。
(二度目の体験ならば、この正気度喪失は省いても構わない。)

図書室の本と違い、この手記の内容は制限なく口頭による情報共有が行える。
他の探索者が読む場合は《英語》に成功しなければならない。
解読する場合は成功、失敗に関わらず、時間経過は(1d3)×10分間である。



▼<誰かの手記>
ヴードゥーの儀式で使われたという品を手に入れた。神の依代を選ぶ石とのことだ。
 知り合いに仲介された人物から、運良く譲ってもらえたのだ。
 石はとても鋭く刃物を思わせる。どのように選定を行ったのだろうか?』

『なんということだ、石がひとりでに動き出して襲ってきた。
 石は私に怪我を負わせると、力を失ったように落下して砕けてしまった。
 これが神の選定だとするならば、随分と乱暴な神である。
 非現実を題材に研究を続けてきたが、このような現象を目の当たりにしては驚きを隠せない。
 幸い出血はしていないが、ひどく胸がざわつく。』

『まさか数日間も意識を失い、病院で目覚めるとは誰が予想できるだろうか。
 これも神の選定だとするなら、笑い事ではすまない。
 いいや考えすぎだろう。医者も目立った異常はないと言い、やっと退院できたのだから。
 しかし、先日の傷口が治るどころか広がっているのが気になる。
 医者に聞いたが、治りかけてカサブタが広がっているだけだという。
 治りかけの傷だからか、やけに痒みがひどい。』

『こんな馬鹿なことがあるのか?
 石を持っていた人物に話を聞こうとわざわざ知人を尋ねたというのに、覚えがない?
 そんなはずはない、確かに彼は いや彼女?
 おかしい 思い出せない なぜ なぜ? 顔も声もさっきまで
 顔? そもそも顔が あっただろうか?
 違う 忘れているだけだ また聞きに行けばいい             誰に?』

『また怪物に襲われる夢だ また知らぬ場所だ もう迷いたくない
 何日目だ? 眠れたのはいつだ いつ 眠りたい 寝たくない
 私を怪物などと罵る知人たちのせいだ。
 私は怪物ではない 私は狂っていない なぜ信じない 何を信じればいい?』

『気味が悪い、私を狙っている。
 頭痛で視界がぼやけているが、幻覚などではない。
 付け狙われている。悪夢が現実にでもなったか? 
 誰も助けてくれない。』
(暫く白紙のページが続く)

『知った なぜ? なぜ知った? 無理だ 生きられない
 神よ 殺して            死ぬな ダメ 抗え』

(指で書き殴ったような単語の羅列ばかりになる。)
『書け 書け 私 消える イヤ 書け 私 生きろ 私を残せ』
『消える? イヤ なんてこと アレ ダメ 私 違う』
『助けて 助けて イヤ 神よ お願い ダメ アレが来る なぜ なぜ 神よ』

(以降の手記は白紙となって途切れている。)

手記の裏表紙の内側には「コニー・フォン・ピンタースコット」と署名されている。
鬼気迫る内容を感じ取った探索者は(0/1d3)の正気度喪失が発生する。


 <※KP情報※>
 手記の内容は、博士が依代として選ばれ、宿主へ変貌していく過程を記したものだ。
 「神の依代を選ぶ石」はニャルラトテップを崇拝する黒魔術集団が使うアーティファクトだ。
 石は手のひら大の鋭利な形状で、楔形文字のようなデザインで飾られた緑色の見た目をしている。
 選ばれた人間がこの石で切りつけられると、ニャルラトテップのための依代である「宿主」となる。
 石による傷は黒ずみ出血はしないが、暫くしてから犠牲者を(1d10)日間続く昏睡状態に陥らせる。
 昏睡状態の間、犠牲者は迷宮や怪物の悪夢に苛まれ、最後に人間の姿をしたニャルラトテップと出会う。
 邪神は犠牲者へ「キミは選ばれたものである」と語ると、犠牲者は目覚める。
 (参照:マレウス・モンストロルムP.210「宿主」)


 

06:2階(奥の部屋)


●展示室
広い部屋はところ狭しと古物が散乱している。
どれもコレクションだったと思わしき品だが、全て破損している。
ショーケースは割られガラス片が散らばり、棚も荒れきっている。

散らかった展示室は、ひときわ違和感を放つ【黒い穴】が、床にポッカリと開いている。
穴は人間一人が通れる大きさで、穴の中に明かりはなく暗闇が広がっている。
どこに繋がっているのかもわからないが、少なくとも1階では無いことはわかる。


▼黒い穴の中
一見すると底なしに見えるが、入れば地面も天井もある。
何かを投げ入れれば、それほど深くはないと判断もできるだろう。
実際に降りてみると、大人の身長より若干高い程度の深さだ。
穴の中で頭上へ腕を伸ばせば、見えない天井に手がつく。
穴の広さは分からず、奥へ行こうと思えばどこまでも行ける。

明かりで照らしても反射すること無く、暗闇が光を飲み込んでしまう。
不思議なことに、光はなくとも自分や相手は、物体をを認識することができる。
奥の方へ目をやれば、何かが落ちているのがハッキリと見える。
近づいてみると、変わった形の【短剣】だと分かる。


 <※KP情報※>
 短剣を入手する際の注意。
 短剣には特殊な効果があり、正しい知識を有していない者が触れると呪いが発生する。
 正しい知識とは、ニャルラトテップに選ばれた僅かな者しか知り得ない情報である。
 本シナリオでは、図書室の【手書きの論文】で《幸運》に成功した探索者のみが得られる。
 手書きの論文にあった、<知覚できない文章>が正しい知識に該当する。
 
 手にした探索者が「正しい知識(知覚できない文章)」の情報を得ていない場合、下記の呪いを参照。
 本来ならばトートの短剣を最初に所有した際の正気度喪失はもっと軽い。
 本シナリオでは、永久的発狂寸前の博士の精神世界であることから、減少量を多くしている。
 並びに、トートの目撃(1/1d6)、悪夢の体験(1d3/1d10)を合算した数値にしている。

 正気度喪失を行った後に、穴に潜む怪物との遭遇イベントを起こす。
 穴の怪物の正体は、コニー博士の悪夢への恐怖が抽象的に具現化されたものである。
 精神汚染に荷担する存在のため、探索者は泥の材料にしようとする。




●短剣の呪い
以下は正しい知識のない者が【短剣】に触れると発生する呪いだ。
探索者が短剣に触れると、意識が朦朧とし、幻覚により数分の間動けなくなる。
その内容は、幻覚とするには鮮明で生々しく、数分とは思えないほど長く目に浮かび上がる。

『短剣を持ったはずの探索者は、石の台座の上にいた。
 瞳に映す松明のゆらめきが遮られ、誰かの頭部が貴方へと覆いかぶさる。
 人間ではない異形の頭――トキの頭をした大きな体躯の男だった。
 明かりが炎となって、男が握る短剣の切っ先を光らせる。
 振り降ろされた刃先は、迷い無く貴方の体内を開かせる。』

『引きつる呼吸が喉を締め付け、動かない体は叫ぶことでしか抵抗を示せない。
 貴方を一突きした短剣は、腹部を混ぜるのみで、まだ殺しはしない。
 肉の上で刃が抉り踊り、なみなみと苦痛を注いでいく。
 圧迫感で思考を潰し、血潮の逆流で喉を焼き、心身の許容量を超えてもなお続いた。』

『短剣が体から抜かれた頃には、認識能力は焼き切れかけていた。
 まばたきすら忘れた視界に映った短剣は、赤い塊を貫き掲げている。
 塊が吹き出した赤色は貴方の目を染め上げ、視界を塗りつぶす。
 潰れた世界は笑った。異形の男――名状しがたき声の主が、貴方を笑っていた。』

意識を塗りつぶす映像を体験してしまった探索者は、(1D3+1/2D8)の正気度喪失が発生する。




●穴の怪物
短剣入手後、探索者は穴に潜んでいた怪物に遭遇する。
穴を出ようと顔を上げた探索者は、赤い光と目があった。
『赤い光は瞳かと思えば、目玉の中央には人間じみた口が開閉している。
 不快な声をこぼし、うぞうぞと触手めいた蠢きの気配を与えてくる。』
穴の怪物を目撃した探索者は(0/1d3)の正気度喪失が発生する。


▼怪物からの逃走
『一際大きく瞳の大口が開くと、狂気の叫び声を轟かせた。
 探索者の方へ迫っているのが分かる。』
怪物から逃走するには[DEX9]との対抗ロールに勝利しなければならない。チャンスは一度のみ。
なお怪物はあらゆる攻撃を受け付けないので、攻撃してきた探索者は強制的に捕獲される。
対抗に勝利して穴から脱出すれば、怪物が追いかけてくることはない。


▼逃走失敗時
おぞましい怪物に捕食されるような体験により(1/1d6)の正気度喪失が発生する。
怪物に捕まった探索者は、今にも潰されそうな圧迫感と、肌を焼くような熱さを負う。
穴の中からは消え去り、階下で溢れだしている黒い泥の中で、身悶え叫びながら目を覚ます。
捕まった者が短剣を所持していた場合は、手にきつく握りしめられたまま泥の中にいる。紛失はしない。

捕まった時点で、逃走済みの探索者たちは<階段方面からの叫び声>が聞こえる。
誰の声かは《聞き耳》をさせると良いだろう。
黒い泥を確認すれば、化け物に捕まったはずの探索者が泥に埋もれた姿を発見できる。
うつろな瞳で痙攣しながら泥に浸かっている様子は、放置するには忍びないだろう。
泥から引き上げる際は、特に抵抗ロールは必要ない。

泥から引き上げられた探索者は、全身に軽い火傷を負ってしまっている。
死ぬことはないが【耐久3点まで減少した状態となり、10分間は麻痺状態でろくに動けない。】




●短剣を調べる
短剣は長さ約30cm、柄は首の長い鳥の頭を模している。

《知識》で分かること。
<柄は真鍮、刃は薄い純銀製で表面に模様のような文字が彫り込まれている。>
《生物学》或いは【手書きの論文】を見た者のみ《アイデア》で挿絵のことを思い出し分かること。
<つかの鳥は「トキ」であることが分かる。>

「トキ」だと判明してから《オカルト》か《考古学》を振れる。
論文を見た探索者であれば、《アイデア》で代用可能。
<エジプトの知識の神であるトートは、聖動物がトキであることを思い出す。>
<トキが象られた短剣にはトート神へ抵抗する力が込められているが、代償に呪いがかかっている。>

また《考古学》でクリティカルを出した場合は追加情報が開示される。
<短剣の刃に彫り込まれた象形文字の意味は「門を閉じて休息はない」>
<この象形文字を音訳すると「ナイ」「ハル」「ルト」「ホテップ」という音を生じる。>

 <※KP情報※>
 短剣を少女に触れさせようとすると「気味が悪いので触りたくありません」と拒否する。
 本来は呪いが発生するが、少女は知識を与える側の邪神なため短剣に触れても何も発生しない。
 普通の少女であるならば、触って何も起きないのは逆におかしい現象である。


 

07:寝室の中


●宿主との邂逅
寝室の扉を開くと、吐き気をもよおす異臭で満たされている。
異臭の発生源であろうベッドを見れば、人間だったものがいた。
『耳、頬、額、頭皮はまだまともだったため、かろうじて人間と分かった。
 顔の半分を黒ずんだ鱗に覆われている。口はイグアナを思わせ、眼の周囲には黒い輪が浮かんでいる。
 異常な関節の位置が人間には不可能な体勢をとらせ、体を支える指には水掻きができかけている。
 怪物は狂気で歪んだ笑みのまま空虚をみつめ、泣いている。』
腐敗と混沌と捏ね固めた人外を目撃した探索者は(1/1d10)の正気度喪失が発生する。


 <※KP情報※>
 怪物に成り果てた人物こそ「コニー・フォン・ピンタースコット」博士、本人である。
 正確には精神世界にかろうじて残された博士の自我だ。
 博士は半分以上「宿主」と化しているため、異形の姿をしている。

 書斎の写真を見た探索者ならば《目星》や《アイデア》で博士本人だと気づける
 成功すると<この怪物には書斎にあった写真の女性の面影がある>と分かる。
 若しくは発狂者ならば「狂人の洞察力」で気づいても構わない。
 (狂人の洞察力:発狂したPCが《アイデア》に失敗すると気づく。)


▼溢れた笑み
怪物の目撃時、少女は発狂もしなければ正気度喪失も起こらない。
目撃時に少女に対して《目星》をすれば<口元が少しつり上がっている>のに気づくだろう。
一方の少女は、まるで恐ろしいものを見てしまったと恐れおののくフリをする。
「こいつがこのおかしな空間の原因に違いない! 殺さないと!」と演じながら探索者たちをそそのかす。


▼都合の良い無抵抗
少女こと邪神へ攻撃の意思を見せさえしなければ、怪物こと博士は全くの無抵抗だ。
怪物の手には包丁が握られているものの、無抵抗な間であれば、簡単に取り上げ可能である。
同時に、無抵抗な間であれば簡単に目の前の怪物を殺すこともできる。
ただし、怪物への物理的攻撃は全て無効となる。有効手段は【トートの短剣】による攻撃のみだ。

怪物は少女の意思により、探索者からの攻撃を回避しない。
トートの短剣で一突きすれば絶命する。
断末魔の醜い叫び声は、探索者の耳から血が流れるほど強烈だ。
探索者たちが怪物(博士)を殺してしまった場合は【結末2「邪神の招来」】へ移行する。




●嘘を見抜く
探索者たちが少女への疑念をぶつけるか、敵対意思を見せたなら、邪神は演じることを止める。
少女は多少煽りはするが、特に何をするでもなくニヤついているだけだ。時間は刻一刻と過ぎていく。
探索者が少女(邪神)に対立する意思をハッキリさせた時点で、攻撃判定前にイベントが発生する。

少女へ敵意の切っ先を向けると『少女の顔が歪む』
『その歪みは苦痛でもなければ笑でもなく、言葉の通り歪んでいるのだ。
 顔だけ空間がねじ曲げられたように、輪郭が、パーツが、境界が、次元がうねりぼやける。
 誰なのか、人間なのかすら判別がつかない。』
歪む顔を見てしまった探索者は(1/1d3)の正気度喪失が発生する。

探索者はこのSANチェックに成功した場合のみ、トートの短剣による攻撃行為を少女へ行える。
SANチェックに失敗したならば、恐怖に囚われトートの短剣の攻撃は自動失敗となる。
他の攻撃行為は行ってもいいが、トートの短剣以外の攻撃は歪みに絡められ効果はない。

探索者が攻撃行動に入った時点で「宿主のなりかけ」である博士が敵対行動を行う。
探索者が複数人ならば、能力値対抗などで博士を足止めさせても構わない。

邪神をトートの短剣で退散させる場合は、耐久0以下にせずとも、刺すだけで達成できる。
少女へトートの短剣を突き刺せた時点で【結末1「邪神の退散」】へ移行する。



★「コニー・フォン・ピンタースコット博士」宿主に選ばれた古物研究家
STR:11 CON:10 DEX:10 POW:25 SIZ:14 INT:15
SAN:1 HP:12 MP:25 移動:9 回避:なし db:+1d4
――――――――――――――――――――――――――
[武器]料理包丁 40%:ダメージ 1d4+db
    叫び声 50%:ダメージ 1d2+(1d10)ラウンドの聴覚不全
[装甲]1ポイント:うろこ状の皮膚、トートの短剣以外の物理攻撃無効。
[呪文]不完全なため使えない
[正気度喪失]目撃した場合(1/1d10)
*姿こそ「宿主」そのものだが、不完全な変容のため本来のステータスより弱体化されている。
<「料理包丁」耐久:9 ダメージ(1d4+db) 射程:タッチ 技能《ナイフ》>


 

08:結末


結末1か2へ至る前に探索者が死亡してしまった場合。
死亡した探索者は、屋敷での記憶をすっかり失って現実世界で目を覚ます。
ただし、死の体験により正気度は【死の直前の値から半分の値】となっている。
その後の展開は、他の探索者の行動によって反映される。
一人でも邪神を退散させたのであれば、【結末1】となり無事に元の生活へ戻れる。
もし探索者が全員死んだ、或いは博士を殺してしまったならば、【結末2】となり諸共殺される。



●結末1「邪神の退散」
無抵抗者を演じる神を、トートの短剣で刺した場合である。
刺された少女は口角を釣り上げ呟いた。
「こちらの思い通りに動いていれば幸せだったものを……。」
冷々たる視線が探索者を突き刺し、氷水へ突き落としたような凍えすら感じる。
すると、探索者全員が急激な体温の低下を感じ出す。
体も思考も動きを鈍らせ、死を間近に感じるほどの眠気に襲われ倒れ伏す。
倒れ込む間際、視界の端に映り込んだ少女に笑顔はなく……虚無と奈落の穴だけが顔面にあった。

体の芯にじわりじわりと熱が戻ってくる。
感覚を取り戻すと、探索者は見覚えのある寝床で目を覚ました。
悪夢での探索は精神へと残り、正気度はそのままとなる。
外傷などは全て元通りとなっており、直ぐに元の暮らしへ戻ることが出来るだろう。

屋敷で得た記憶から、ひとつだけ欠落する情報がある。
手書きの論文にあった認識も伝達もできなかった知識――トートの短剣に関する正しい知識は欠落する。
思い出そうとすれば、おぞましさに脳を染め上げ拒否反応を示すだろう。


○クリア報酬
1)クトゥルフ神話技能を(1d6)%贈呈
2)結末1で生還した探索者は(1d6+1)の正気度回復
3)少女へとどめを刺した探索者のみ更に(1d3)の正気度回復




●結末2「邪神の招来」
本物の「コニー・フォン・ピンタースコット」博士を殺した場合である。
探索者は現実世界で浮き上がる恐怖と遭遇し、殺される。

博士を殺すと、悲しげで恨めしげな表情のまま顔は黒い鱗に飲み込まれていく。
探索者の背後で拍手が聞こえる。
振り返ると笑顔の少女がは泥の上に立っている。しかし拍手は彼女からではない。
2階まで溢れ出した泥が手のをカタチ作り、賑やかな拍手を探索者へ贈っていた。
泥が口を作りだし喋る。
『おめでとう! 何て事をしてくれたんだ!』
『君たちのお陰だ! お前たちのせいだ!』
『すばらしき祝福が! 最悪の災厄が!』
『神の誕生だ! この世の終わりだ!』
泥の上で少女だったもの――無貌の存在が虚空の笑顔で言葉を授ける。
「さようなら 覚醒の世界で会いましょう」
探索者は溢れかえる泥によって、重く深く意識も体も沈められていった。

暗転した視界が開かれる。
見覚えのあるここは、自分が昨晩就寝した寝床だ。
外は夜明け前なのか、薄明かりが見える。
しかし、夜明けにしてはやけに外が騒がしい。ひどく嫌な臭いもする、火事でも起きたのだろうか。
様子を見に出てみれば、あらゆる現実を崩す地獄が――名状しがたき災厄がいた。

『醜怪な恐怖そのものが、ゆらゆらと漂うように浮いている。
 ゼリー状の丸い塊じみた胴体は、脈打つ青い筋が網目のように走り、波打っている。
 下部の口らしき割れ目には赤黄色の繊毛が密生し、絶えずよじれるように動いていた。

 黒ずんだ表皮はねばねばとし、泡立ちながら、吐き気を覚える塊を側面から流れ落としている。
 真珠層や凝固しては光る乳の塊、ぎっしりかたまった卵などが、足跡代わりに落としていく。

 粘ついた膜は細い穴があり、ギョウ虫に似たものがくねり出ている。
 黒絹のような膜に、細長いそれらは不気味な光は放ち、深海のバクテリアでも見ているようだ。
 それらの触手に支えられながら、巨体は地面から二、三メートルの空中に浮いている。』

災厄は人々を捕食しているようにも、弄んでいるようにも見えた
浮き上がる恐怖を目撃した探索者、(1d10/1d100)の正気度喪失が発生する。
(「浮き上がる恐怖」のステータスはマレウス・モンストロルム(P202-203)を参照。)


▼攻撃と特殊な効果
主な攻撃は触手である。
何百もの刺のある触手は、浮き上がる恐怖の全身を覆い、うごめき揺れている。
浮き上がる恐怖はこの触手で打ちかかり、毎ラウンド好きな数の相手を攻撃できる。

犠牲者はそれぞれ(1d6)本の触手で攻撃を受ける。
それぞれの触手は[STR5]であり、まとまって犠牲者に組み付くことも出来る。
組付かれた犠牲者は浮き上がる恐怖の口の一つに引き寄せられ、丸呑みされる。
丸呑みされた犠牲者は、消化により毎ラウンド(1d10)ポイントのSIZを永久喪失する。
SIZの喪失により、犠牲者はひどく傷つくか、重度の障害を負うことになる。

浮き上がる恐怖はひどい臭気を発生させ、犠牲者に嘔吐を催させたり、止まらない空咳を起こさせる。
この臭気を受けた犠牲者は(1d6)ラウンドの間、いかなる行動もとれなくなる。
浮き上がる恐怖の有毒な臭気の効果を逃れるには、探索者はそれぞれ[CON×5]に成功する必要がある。


▼時間切れの場合
泥が屋敷の中を満たすほど時間が経過した場合。
探索者は泥に溺れ、窒息して意識を失う。
息苦しさに目を覚ますと、屋敷でもなければ部屋ですらない。
目覚めた場所は、ゼリー状の腐臭の塊の体内だった。
ここは浮き上がる恐怖の体内である。
探索者たちはもがき苦しみながらSIZを吸収され、跡形もなく消滅するだろう。


 

09:その他補足や裏話


●本情報の扱い
情報が得られる本は、記述者である博士自身の精神世界なので瞬時に伝えられるようにしました。
逆に通常の出版物などは、博士の記憶頼りのため曖昧な内容になっており役に立ちません。
このギミックは、時間制限付きの中でも短い時間で情報を得るためでもあります。


●「宿主」のステータス
本来の「宿主」は本シナリオの2倍以上のステータスを誇ります。
本シナリオでは探索者が神話生物にも対抗可能なラインに設定したため、大幅に弱体化してあります。


参考・引用(敬称略)


クトゥルフの呼び声クトゥルフ神話TRPG
キーパーコンパニオン改訂新版
マレウス・モンストロルム


***ここまで読んで頂きありがとうございました。***
(2013/12/15) シナリオ製作:kanin(http://kanin-hib.hateblo.jp/
(2014/01/25) シナリオ修正
(2014/01/28) 難易度調整
(2019/04/08) 文章や判定の修正
(2021/10/19) データ表記の修正