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CoCシナリオ「星霜約め」

「星霜約め(せいそうつづめ)」
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01:はじめに


本作は「クトゥルフの呼び声 クトゥルフ神話TRPG(6版)」に対応した非公式シナリオです。
舞台はイギリスの孤島に佇む古い城館。季節の指定はない。
推奨人数は2~3人、PL1人とKPから補助で探索者を用意することは可能。
人数の注意点として、分断探索がしやすい4人以上は推奨されない。

*推奨探索者
 《母国語(英語)》になる探索者を推奨、《他の言語(英語)》で取得も可。
 この推奨は情報文章が全て英語のため、判定を省略する意図によるものです。
*推奨技能:〈目星〉〈芸術(イカサマ)〉
*準推奨技能:〈図書館〉〈オカルト〉

※注意事項
 探索者の年齢変化が発生し、10歳手前の年齢となる。
 並びに、能力値や技能値の修正も発生する。
 この数値変動は生還すれば後遺症とならず元に戻る。


▼あらすじ
 宝探しの依頼を受け、探索者は小さな街へと向かう。
 住人から物騒な昔話を聞かされながら到着したのは、墓場の山だった。
 己の時を不条理に奪われ、小柄な姿となって怪しげな古い城館の探索をはじめる。
 希少な宝石を求めて島の秘密に触れていく最中、背後に感じるのは死の存在だ。

 

02:シナリオ背景


●探索者の目的
依頼品である宝石の入手と、孤島からの脱出が目的となる。
探索者は古い城館での探索前に、門番によって体の時間を奪われてしまう。
年齢と寿命が大きく縮められ、少年期の姿となった状態で探索は行われる。
なお本作は探索者が自ら大いなる驚異を解放しながらも、逃げ延びることが望まれている。



●間接的な依頼
探索者たちは依頼を受け、片田舎の孤島へ宝探しに出てもらう。
この依頼はかなり間接的に行われているため、依頼主の真意を掴むことは非常に難しい。

依頼主はどんな人物でも良い。KPは探索者が関わりやすい職業にすると良いだろう。
いわくつきの骨董品を集めている金持ちの好事家や、裏社会組織のお偉方などだ。
必要であれば前金の支払いなどをしてもいいだろう。

依頼主の背景には、とある老獪な魔術師の存在がある。
魔術師に作った借りを返すために、依頼品を探させるのだ。
無事に生還して依頼を達成した場合にのみ、正式に老魔術師と対面できる。


▼依頼の品
依頼品は大粒の希少な宝石(赤いダイヤモンド)という名目で伝えられる。
正体は老魔術師が作成したアーティファクトであり、ある邪神を封印する要石だ。
封印されているのは葬儀の神「シノーソグリス」(マレウス・モンストロルムP.176)。



●城館の状況
メインの探索箇所となる無人の古い城館に、件の宝石は存在する。
城館は多くの使用人が働いていた痕跡はあるが、殆どが邪神の影響で短い命を亡くした。
孤島の住人たちを死へ追いやったのが「シノーソグリス」である。

城館に生者は存在しないが、一部の死者がお役目を全う中だ。
死者たちの主な役割は、城館に秘する宝石を守ること。
彼らは理性的であり、部外者に対しては理由もなく一方的に襲うことはない。

宝石は城主の墓に埋葬されており、墓所から移動させると封印は解かれる。
探索者の行動は邪神を解放してしまうが、依頼主の想定範囲内だ。



●最寄りの街
孤島へ向かうには街から船で移動しなければならない。
この街はまだ寂れた村だった頃に、城館の住人と交流があった。
今は不気味な孤島についての曖昧な口伝しかなく、導入では一部だけ伝えられる。
もし詳細に調べたい探索者がいれば、KPは以下の内容を参考にすると良い。
昔話は探索者を送迎する船頭だけが詳細を知っている。街の中では一番の高齢者だ。


▼街の昔話
若い貴族夫婦が幾人かの付き人を伴って村を訪れた。
彼らは村に住まうことはなく、ほど近い孤島へ城館を建て移り住んだ。

貴族夫婦は孤島の外へは出てこなかったが、村人が不審を抱くことはなかった
彼らは裕福で余裕があり、村人が援助を求めれば直ぐに手助けをしてくれたからだ。
何で財を成したかはわからないが、時折やってくる彼らの客は身なりの良いものたちばかり。
さぞ名のある家の出身なのだろう、と村人は恭しく貴族夫婦を扱った。

城館から村へ来るのは、買い出しの使用人だけである。
いつも幼い子どもだったので、移り住んだ者たちで子を成したのだろう。
城主への用事があれば使用人の子供へ手紙を渡し、仲介をしてもらっていた。
接点は少ないが、城主と村人たちの関係は良いものであった。

ある年に、朝昼晩を問わずに村に濃い霧が立ち込めるようになった。
霧に当てられたように、人間も家畜も別け隔てなく気を狂わせる霧だ。
謎の伝染病かと恐れた村人は、孤島の貴族へ助けを求めた。
久方ぶりに村を訪れた城主は、村人たちから事情を聞いて回ると、ある提案を申し出た。

「手立てはある。ただし解決する交換条件として、二度と島へ来てはならない。」

翌日、島の上空にだけ暗澹たる雨雲が立ち込めた。
海を隔ててなお響きわたる雷鳴に、村人たちは恐れおののくしかない。
困惑しながらも約束した貴族との取り決めに、不安を抱いて神へ祈る。
しかし嵐が村を襲うことはなく、霧も伝染病の驚異もパタリと止んだ。
代わりに、孤島の貴族と関わる機会は一切なくなってしまった。

使用人の一人すら来なくなった状況に不安を覚えた村人は、数人で孤島を見に行った。
お礼の一言だけでも伝えたいと思っての行動だったのだろう。
島へ到着した村人は腰を抜かした。
あたり一面に墓場が広がっていたのだ。
恐る恐る城館の門を叩けど、扉越しの嗄れた声が一言だけ返ってくるのみ。

「二度と来るなかれ」

せめて礼だけでも言わせてくれと食い下がろうとし、背筋に悪寒が走った。
おびただしい数の墓石の影から、恐ろしき化物が村人たちを睨んでいるではないか。
墓石に負けず劣らずの数多の野犬だろうか。
いいや、ただの野犬ではない。体を透かせたゴーストリィ・ドッグどもだ。
村人は恐ろしさで逃げ帰り、島へ近づくことはなくなった。

何十年か経ち、興味本位で島へ行った輩の話も聞いた。
そいつらは墓場の気味の悪さでとんぼ返りしたそうだ。
更に奥へ入ったものは、今も行方がわからない。

 

03:シナリオ導入


●依頼内容
依頼の方法は対面、文書、通話、どれでも構わない。依頼が成立さえすれば良い。
依頼の品は希少性の高い「レッドダイヤモンド」、推定100カラット(約20g)の財宝だ。
オークションでは1カラットに100万ドル近い価格が支払われたという話もある。

行き先はイギリス片田舎にある孤島の古い城館。
小さな村の船着き場から船を出していく。

案内(同行NPC)が一人つき、城館へ入る鍵開けと、船の手配を担当する。
同行NPCはベテランの錠前師であり、城館の鍵を開けるために高い金で雇われた。
このNPCにとっては、楽な鍵開けと案内だけで報酬が得られる簡単な仕事である。

NPC仮名称「クモーツイ・ケニエ」
確実に死ぬ役割にあるため、KPの既存探索者を添えるなどは推奨しない。

▼入手に行く際の条件
入手に向かう際に、少し奇妙なオーダーが言いつけられる。
命を守るのならば別だが、不用意な暴力的解決を依頼主は望まないと言う。
【煩わしい状況となっても、決して荒事で解決はしないように。】


シグネットリング
依頼主から【シグネットリング】を1つ渡される。黒灰色の光沢を放つ大きめの指輪だ。
村の船着き場でこの指輪を見せれば船を出してくれる。許可証の代わりのようなものだ。
探索者のうち一人が付けるといいだろう。

*《知識》など知れる情報
シグネットリングは紳士が富と名声を誇示するものとして古くから親しまれている。
この指輪は赤鉄鉱(ヘマタイト)のリングと台座に、紋章が刻まれたアンティーク品だが、赤鉄鉱は貴重なものではない。

*細かく見た際の情報
紋章は<鎌をもった老人が翼に囲まれた造形>が彫り込まれている。
また指輪の側面は細かい模様がある。
よく見ると文字になっており「SATOR AREPO TENET OPERA ROTAS」と刻まれている。


 <※KP情報※>
 渡されたシグネットリングは、孤島での探索を可能にするためのキーアイテムである。
 最も重要な点は、危険な孤島で生き延びるための命綱であることだ。
 (詳細は【06:城館の探索】を参照)



●城館の最寄り街
小さな港街「サートル」が出発地点となる。
下調べをしたならば、<街近くの孤島に城館がある事は公にはされていない>とわかる。
街人たちは意図的に城館と関わりを持とうとしていない。
存在は知っていても、そこに何があるかは知らないままでいようとしているのだ。


▼船着き場
案内人に連れられ船着き場へ来ると、孤島へ向かう船(小さな漁船)が用意されている。
操舵者は 大きな麦わら帽子を深く被った無口な老人だ。
他の街人は元気そうなのに、この船頭は随分と老いて見える。

指輪を見せれば驚きを顕にして、船へ乗る事が許可される。
指輪について聞けば「城主様の紋章だ」としわがれた声で呟く。

船で孤島へ向かう道中、船頭から不安げに聞かれる。
「お前さんら、本当に島へ行くのかい?」
探索者が疑問を抱けば、船頭は短い昔話を話す。

「あの島には、名のある貴族様が住んでいらしたんだ」
「けれど島にあるのは墓場ばかりで、ご立派な城館には入れやしない」
「何故入れないかって? 正しくは『入りたくない』だな」
「なにせ城館に入った輩が、帰ってきた試しがないんだよ。」

村側からは切り立った崖のせいで島の状況は見えない。
件の古い城館は崖の裏側にあるようだ。

 

04:城館への侵入


船は島の外周をぐるりと迂回し、入り江の岩礁へ着船する。
入手にどの程度かかるかわからないため、船は島を離れて待機する。
再び船を呼ぶ際には、同行NPCが合図を送るという。

島は中央の高台に鬱蒼とした木々に囲まれた古い城館が建ち、周囲を全て墓場が取り囲んでいる。
唯一の館へ向かう道の左右にも墓場が広がり、枯れかけの草と木の根が石畳を波打たせてしまっている。
歩き難い石畳の道を進めば城門だ。

★幽霊犬
石畳の道を進む道中、墓場から現れたおびただしい数の幽霊犬と遭遇してしまう。
『墓場の一つから、いや二つ、いいやもっとだ。
 墓標の殆どから、おびただしい数の朧気な輪郭が現れた。
 まるで霧を固めたような煙の塊たち。
 不揃いな脚は地面を蹴らぬまま、歩く動作をするだけで滑るように移動する。
 音もなく歩き、鳴き声もあげず、しかしてそこに、犬とわかる浮遊物が幾つもいた。』
幽霊犬の集団を目撃した探索者は(0/1D3)のSANチェックが発生する。


 <※KP情報※>
 幽霊犬が探索者を襲うことはない。ただジッと見つめるだけだ。
 幽霊犬は全て使用人たちの魂が変質したものである。
 城主の許可なく入り込んだ侵入者を追い返すのがお役目だ
 探索者たちは城主の指輪をしているので、襲われることはない。
 寧ろ招かれた対象として出迎えている。
 (「ゴースト/幽霊犬(ゴーストリィ・ドッグ)」参:マレウス・モンストロルムP.263)



●城館へ侵入する
城館には鍵がかけられており、同行NPCピッキングで開けてくれる。
古い鍵なので時間をかけずに解錠される。

扉には見覚えのある紋章が彫られている。指輪の紋章と同じものだ。
《アイデア》で<館に記されている紋章の絵柄は、指輪の紋章が反転した図柄だ>と気づく。

金具が軋む音と共に扉が開かれ、積もっていたらしい埃が舞った。
薄暗い城館内は、外からの陽光がを取り入れる窓のお陰で明るさは充分ある。
長く伸びた廊下の先に扉が見えるが、何の部屋なのか、その部屋の鍵は開いているかもわからない。


▼門番との遭遇
城館へ入った者たちは気絶させられ、門番によって探索者は子供にされてしまう。
同行NPCは姿はそのままだが、門番がとりついて操り動かされる。

『城館に入ると同時に、軽やかなベルの音が聞こえる。
 扉に備え付けられたものだろうか?
 しかしベルの音は、チリンチリンと断続的に鳴らさている。
 音が段々と大きくなるにつれて、探索者と同行NPCはもろとも意識が遠のき気絶した。』

気を失う時間は短い。
目覚めた探索者は、次のことに気付かされる。

『目覚め起き上がると、やけに視界が低い。
 全ての物が大きくなったかのようだが……逆だ。
 小さい掌に細い腕、周囲を見上げるほどの低い身長。
 声を上げれば、変声前の高い音がした。子供になっている』
己の時を奪われた探索者は(1/1D4)のSANチェックが発生する。

*<探索者の数値変化>
 探索者は門番によって年齢が縮められてしまい、10歳手前の年齢になる。
 SIZは7に変更し、STR、CONを各-3点する。
 (能力値は下限3、40歳以上の能力値減少を除外した数値で変動させる)
 能力値の変化に伴い、耐久とダメージボーナスも変更する。
 《戦闘技能》へ30%のマイナス修正と、《回避》と《隠れる》へ30%のプラス修正が発生する。
 (回避技能は変動後の上限99%、100%にはならない。)



●門番との会話
起き上がった同行NPCは変化がないように見えるが、門番が憑依して操っている。
門番の口調は至極丁寧な使用人としての口ぶりである。

探索者へ伝える内容は、以下の3点。
 1)探索者の時間(年齢と寿命)と、同行NPCの身体を捕虜にした
 2)戻してほしくば門番へ【正しい成果】を見せること
 3)探索者は己の時間を捕虜にされている限り、城館を出られない

「いらっしゃいませ、招かれざるお客様」
「不審な行動がお見受けされたため、幾らかお時間を預からせていただきました」
「さしあたって、不作法できない範囲で時間の徴収を留めております」
「例えるならば『魂を人質にした』と申し上げた方が、ご理解されますでしょうか?」
「こちらの方(同行NPC)は特にいかがわし行動でしたので、私自ら拘束いたしました。」

「貴方様方が城主様の許可を得ているのであれば、用事があっての侵入でございましょう?」
「であれば、私にご用事の成果をお見せください」
「ただの盗人でなければ【正しい成果】が何であるかは自然と辿り着くはずです」
「もし本当の使いの者であったならば、私の無礼をご容赦ください」
「なにせ、これまで何人も主の使者を語る不届き者たちがいましたので。」

「それと、私が皆様のお時間を握っている限り、この島からは出られません」
「逃走は選択肢にございませんので、あしからず。」


▼追加の情報
【正しい成果】について門番へ食い下がると、少しだけ助言を与える。
「私が城主様から伺っている通りならば<物のカタチをした物ではないもの>でしょう。」

目的のレッドダイヤモンドについて聞いたなら、逆に怪しまれてしまう。
「宝石を盗みに来たというのであれば、皆様は盗人であると認識してよろしいので?」

忠告を無視して逃走を図ろうとした場合は、更に警告する。
「現在の皆様は、命の主導権が私にございます」
「皆様は命の欠片だけで動いているようなもの」
「島の中ならば糸が繋がっており、幼い姿になる程度で済んでおりますが……」
「離れてしまえばプツリと糸は途切れ、二度と命は戻りません。」

城の中は好きに探索をして構わない。
門番は長らくエントランスにだけ存在していたので、現在の城館内の様子は不明だ。
少なくとも生きているものは居ないことだけは知っている。
なお、門番と拘束している同行NPCが協力をすることはない。


 <※KP情報※>
 正しい成果は宝石を入手した後に得られる情報から、門番が想定しているものへと繋がる。
 目的が増えたように思えるが、探索者は当初の目的であった宝石の入手を目指せば問題ない。

 門番は元は筆頭使用人であった人間がレイスになった存在である。
 (「レイス」参:マレウス・モンストロルムP.268)
 最初は侵入者の命を奪うつもりだったが、城主の指輪に気づいて止めた。
 城主の指輪を所持していることから、主の意図が絡んでいると判断して行動を許可している。
 主からは「使いの者が目的を達成するまで逃さないように」と最後の言いつけを受けた。

 

05:徘徊する死


この項目は、探索者が城館内を探索する最中に、常時つきまとう危険についてである。

●邪神の影響と指輪の守護
シノーソグリスは封印されているとは言え、完全に動きが封じられているわけではない。
力は漏れ出し孤島を満たしてきるが、孤島にだけ留められている状態だ。
孤島の中に居る限り、シノーソグリスの影響下にあると言って過言ではない。
特に城館の中は、シノーソグリスの影響が強く出る。

シグネットリングこと【城主の指輪】は、邪神からの影響を退けてくれる。
この指輪は一つしか無く、指輪から離れて探索することは推奨されない。
なお必ずしも指輪を装着する必要はなく、所持さえしていれば効果は発揮される。


▼葬儀の神の催眠
指輪の加護下にある限りは、シノーソグリスとの対抗は免除されている。
分断するならば、指輪を所持していない組はPOW対抗をシノーソグリス(POW30)と行う。
POW対抗に勝利すれば何も起きない。対抗に失敗すると催眠状態に陥る。

催眠状態に陥ると、自分自身の終焉の幻視あるいは白昼夢を見続ける。
これによる正気度喪失は、催眠状態にある限りは発生しない。

指輪の近くに戻れば、自動的に催眠状態は解除される。
指輪による解除であれば催眠中の体験も排除され、正気度喪失は発生しない。

なお催眠状態を解除するために《精神分析》や物理的な方法を行うことは推奨しない。
邪神の影響下にある者は、精神的束縛が途絶えると同時に(1D10/1D100)の正気度喪失が発生するためだ。邪神がそこに居るか否かに関わらず、この正気度喪失は発生してしまう。



●幽霊の囁き
以下の情報は、城内であれば場所を選ばずに探索者は知る機会がある。
城内の探索中に使用人の亡霊が、封印されている存在についての情報を囁く。
訛りがある発音のため《英語》の判定に成功することで内容を聞き取れる。
或いは指輪を所持している探索者が、使用人のメモを入手することで感じ取れる。


▼死神の白昼夢
『また悪魔によって仲間が死んだ
 沢山いた使用人たちも数えるほどになってしまった』

『白昼夢を見る者は素晴らしき己の終焉を謳う
 しかし白昼夢を覚ましてはいけない
 夢から醒めた者は狂い消えてしまった』

『命を差し出すしか 死神から逃れるすべはない』
幽霊が囁く死神の存在の言葉に(0/1)のSANチェックが発生する。


▼封印の綻び
『城主様がお命を引き換えに死神を封じられた
 残された我々は守らなければならない
 死神の残渣は我々を少しずつ死に向かわせる』

『死神の残渣は……あの悪魔は、ただただ死を与える
 目の前が霞めば近くにいる
 他の使用人も覚えていればよかった』

『皆いなくなった 忘れてはいけない 悪魔とて死そのもの』
幽霊が囁く死の悪魔の話に(0/1D3)のSANチェックが発生する。



★死の悪魔との遭遇
このイベントはKPがいれるかどうかを選択する。
タイミングは探索中であれば自由。不要であれば入れなくてもよい。

死の悪魔とは、葬儀の神の力が漏れ出た程度の存在である。
死にやすい作られた使用人たちは、この存在に直接相対するだけで死んでしまった。
探索者はそのようなことが無い上に、指輪の守護もあれば直ぐに死ぬことはない。

『いやな臭いが漂ってきた。
 思えば城館内は埃っぽさだけで、カビ臭さのような湿気た感じはなかった。
 この臭いはひときわ湿ったものを孕んでいる。
 例えるならば、なまぐさい……腐敗した肉。
 だが、ただ生肉が腐っただけでは説明がつかない忌避感を湛えている。』

『あまりにも静かに、死臭が動いていた。
 本能的な拒絶感をもよおす、腐れ臭い生が乾いた気配を撒き散らしている。
 姿は片腕程度の小さなものであれど、肘から先が指先を蜘蛛のように這わせた気味の悪さ。
 それらが群れを成して、刈り取るべき命を探して忍び寄っていた。』
死の悪魔を目撃した探索者は(1/1D6+1)の正気度喪失が発生する。

目視した場合、SANチェックに加えて【耐久1点喪失】を行う。
悪魔は愚鈍なため、発見された後でも《隠れる》に成功すればやり過ごせる。
ただし判定に失敗し、目撃を繰り返す度に【耐久1点喪失】は発生する。

なお悪魔へ物理的な攻撃は一切効果がない。
探索者を発見した悪魔は、《タッチ:25%》を行う。探索者の《回避》は可能。
悪魔に触れられれば現在値の耐久が半分まで減少し、ショックロールを行わなければならない。

悪魔による耐久減少は《応急手当》《医学》による回復ができない。
回復するためには、島から脱出する必要がある。

 

06:城館の探索


探索者が目的の宝石を入手するには、墓守から城主の墓所へ入る許可が必要だ。
墓所は屋上庭園にあり、墓守は常にそこで見張っている。
墓守から許可を得るには、許可証の情報を得て、偽造書類の用意をしなければならない。

*探索場所の開放手順
探索開始時に開いている部屋は、使用人のエリアと礼拝堂のみである。
他の部屋は全て鍵がかかっている。
使用人エリアを探索終了したところで、KPは【書斎の鍵】と【図書室の鍵】を発見させる。
書斎では【屋上階段扉の鍵】が見つかる。
墓所で目的を達成すると、礼拝堂から入れる【地下室への鍵】を得られる。



●使用人エリア
一般使用人に関する情報が、使用人がよく利用した部屋で見つかる。
厨房、パントリー、洗濯室、使用人の居住室などだ。
どの部屋も使いかけの道具が放置されたまま、朽ちた状態で埃を被っている。

▼使用人の大きさ
下記の情報から<使用人の殆どが小柄だった>ことがわかる。
・四脚台やハシゴが幾つもある
・掃除道具は柄が短いものばかり
・大きな食器は少なく、小さな食器が多い
・使用人用の二段ベッドは低い身長に合わせた設計

▼使用人の服
見つかる使用人服はどれも子供用サイズだ。
クラシカルな服装で、白のシャツに黒のジャケットやエプロンである。
服はやや埃っぽいが、今の探索者にはピッタリのサイズで着れる。

▼使用人の数
無造作に置かれた使用人名簿がある。
書かれている使用人たちに姓はなく名前だけ記されている。
やけに人数は多いが、全てに斜線が引かれている。
唯一斜線が引かれていない名前があり「ヴァレット」と記されている。
まるでこの人物以外は全員居なくなったかのようだ。

▼特別な従者の存在
どこかしらの部屋の扉には、一般使用人のメモがピン留めされている。
『忘れてしまったら 書斎の長生きヴァレットに聞くこと』
ヴァレットは一般使用人とは別の扱いを受けている者のようだ。



●礼拝堂
ドーム型の高い天井と、大きなパイプオルガンが座している。
翼の生えた老人が大きな鎌と砂時計を持った銅像が、正面中央で恭しく祀られている。
銅像は指輪の紋章と同じものを表しているらしい。

《目星》に成功するか、パイプオルガンをよく調べると次のことを発見する。
何故かパイプオルガンの背面に位置する壁に、紋章旗がかけられている。
これでは周囲から隠すようだ。
また紋章旗の絵柄は、指輪の紋章が反転した図柄だ。
紋章旗と玄関扉の紋章は同じ向きであることから、指輪が反転した図柄になっていると考えられる。

紋章旗を捲ると、扉らしき鉄板が壁にはめ込まれている。
扉にドアノブはなく小さな穴だけがあるだけだ。
鍵開けをしようと何を挿し込んでも引っかりがないため、ただの穴にしか思えない。

 <※KP情報※>
 この扉の向こうには地下へ続く階段がある。
 魔術的な手段で守られており、入れるのは宝石を入手した後である。
 詳細は【07:宝石と禁忌】を参照。



●図書室
図書室の本は随分と減っており、簡単な読み書きや子供向けの本しかない。
《目星》や《図書館》で判定を行える。
情報は2つ、子供向けの中に、場違いな小難しそうな本を見つけることができる。
どちらも指輪に関する情報である。

▼【鉱物にまつわる歴史】
『赤鉄鉱は“赤い血”を意味するギリシャ語の由来を持つ通り、
 古代では血による守護を象徴してきた。
 赤鉄鉱を用いた顔料は赤々とした血に例えられ、
 危険を退ける祈祷に用いられた資料が多く発見されている。
 現代でもパワーストーンに使われており、黒色、黒灰色、赤褐色の石が多い。』
以上のことから、下記の要点が浮かぶ。
<指輪の素材が赤鉄鉱だとすれば、血に関連する意味合いが込められている。>

▼【神話と古代文明
『指輪の紋章の絵は「サトゥルヌス」を示しており、ローマ神話の大地と農耕の神だとわかる。
 また、ギリシャ神話におけるクロノスと同一視されている。
 収穫は季節の巡りを司ることから、時と密接に関わる存在としても扱われる。』
『側面に刻まれていた文字列「SATOR AREPO TENET OPERA ROTAS」は、
 古代から存在するラテン語の回文だとわかる。
 回文の意味は収穫と農耕を繰り返すようなものだが、
 語源の神の名で捉えれば別の意味にもなる。
 また回文のSATORはサトゥルヌスを表し、
 回文であることが魔法陣としての役割を持つとされている。』
以上のことから、下記の要点が浮かぶ。
<ただの骨董品ではなく、時の神に関連する呪術的な意味を持たせた指輪である。>

2つの情報を合わせた後、<オカルト>や<神話技能>に成功すると以下の事を思いつく。
<赤鉄鉱は城主の血が混じっており、時の神の力で指輪の形状にしている>と想像できてしまう。
呪いじみた指輪の正体に(0/1)のSANチェックが発生する。



●書斎
書斎には殆ど物が残っておらず、書棚もすっかりがらんどうだ。
立派な書斎机がポツンと残され、隣室へ繋がる扉がある。

机を調べると過去の書類が引き出しの中にある。
使用人たちの要望に許可を示す内容が多いようだ。
捺印は無くサインだけが記されている。
ここに記されているのは城主の名前ではなく従者のものであり、隣室を調べる事でわかる。

*<書類の偽造>
 書斎の書類を参考に、屋上庭園の墓所へ入るための許可文書を偽造する。
 それらしい文書の偽造には<芸術(イカサマ)>、或いは<英語>を半分の値で判定する。

*<捺印の仕方>
 無事な黒インクを使い、持ってきた指輪で印をすれば、最低限許される書類となる。
 押した際は黒い印だが、じわりじわりと赤く変色していく。


●従者の部屋
書斎から従者の部屋へと入れる。
他の使用人部屋と同じく小さい家具が備えられている。
有るのはタンスと一体型のベッドと簡素な机だ。
唯一違う点として、この部屋だけはあまり埃っぽさがない。

タンスからは従者の服を入手できる。
使用人服と違いジャケットが白い生地で仕立てられ、シャツは一緒の服装だ。

壁には【屋上階段扉の鍵】がかけられている。
この鍵を使えば、屋上庭園へ入れるようになる。

机には封がされた手紙が何通か置かれている。
手紙の内容は全て同じであり、宛名の名前は使用人リストの載っている。
また不思議なことに、使用可能な普通の黒インクと羽根ペンが発見できる。
古い城館にあったものにしてはやけに保存状態がよい。


▼手紙の内容
残る使用人へ向けての伝言のようだ。屋上庭園にある墓所についての情報がある。
以下の内容から、目的の宝石が墓場にありそうだと想像できる。
ただし墓所へ入るには許可が必要であり、許可証には特別なサインが必要だ。

『屋上庭園にある旦那様の墓所には、我々を守る【大切な石】が秘されている。
 盗まれぬよう守護されているが、墓所の掃除は使用人の務めだ。
 墓所へは無断で入ってはならないため、掃除ができるよう奥様との取り決めを作った。
 従者が許可証を持って行けば、旦那様の墓所へ入る許可が下りる。』

『許可証は偽造の防止に私のサインが必要だが、特殊な記入方が必要になる。
 これを読んでいるならば、現在の従者である私はもういないだろう。
 何人かの使用人に覚えさせておく。』

『追伸
 サインの記入方を覚えさせたものたちが居なくなってしまったため、代案を記す。
 インクは城主様の血が含まれた赤いインクを使用し、城主様の紋章を捺印する。
 この捺印は特定の者のみが判別でき、奥様が持つベル(鐘)が必要になる。
 直接伝えた通りインクと判子の場所は必ず覚えておくように。』

インクと判子の場所だけは、使用人の記憶にしか存在を示す情報がない。
使用人の居なくなったこの場所では、探すのは無理だと判断できる。
ただの【黒いインク】であれば、手紙が置かれていた机に使用可能な物が置いてある。

図書室や礼拝堂で情報を得ているならば、
《アイデア》に成功すれば、以下のことを思いつく。
依頼人から受け取った指輪が城主の紋章を示すものであれば、捺印に使えそうだ。>
<赤鉄鉱製の指輪で捺印すれば、普通のインクで問題ないのかもしれない。>

 <※KP情報※>
 城主の血に繋がる情報は、墓守の元へ行けば教えてくれる。
 どれだけ文書が上手く偽造できていようと、捺印が正しくなければ墓所へは入れない。
 逆に捺印さえ正しければ、文書の偽造は失敗していても墓所へ入る許可は出る。
 ただし偽造に失敗した文書を提出すると、墓守の不審を買ってしまいとある忠告がなくなる。

 従者の部屋の中は他の部屋と異なった遅い時間の流れにある。埃っぽさがないのはそのせいだ。
 従者は城主が居なくなった後、残される使用人たちを見守らなければならない。
 従者も他の使用人と同じく短命であるが、優秀なため多くの責任を担っていた。
 少しでも責任者を長く生きさせるために、あてがわれた部屋である。
 全ての使用人の死を見届けた後、従者は城主の命令に従い門番となっている。



●屋上庭園
階段を上がった先は広々とした屋上庭園だ。
セイヨウヒイラギが生い茂り、この庭園は他とは違い手入れが行き届いている。
最も眺めのいい場所に城主の墓所が建てられ、墓守の小屋が墓所の脇にある。
小屋の中に墓守はおり、墓所の近くまでくると中から出てくる。

墓守は老婦人であり、黒い喪服ドレスは全身を覆い隠して肌が見えるのは顔だけだ。
目が悪いらしく、前を探るように杖をついている。

一見人間のようだが、正体は顔だけ人間なままのミイラだ。
STRとCONだけならば、そこらの人間の軽く2倍はある。
通常のミイラと違って外見は普通なので、SANチェックは発生しない。
このミイラは視覚が失われている代わりに、耳と嗅覚が異様に良い。

★「奥様」城館の墓守ミイラ(参:マレウス・モンストロルムP.267)
STR:22 CON:18 SIZ:12 INT:15 POW:16 DEX:06
HP:15 MP:16 db:+1D6 (APP:05)
――――――――――――――――――――――――――
[武器]杖 70%:ダメージ 1D6+db
[装甲]2点の皮膚、貫通武器は効果なし
[技能]聞き耳 90%、嗅覚 80%
[正気度喪失]目撃した場合なし、ミイラと判明したなら(1/1D8)の正気度喪失


▼墓守との会話
墓守は月日の経過が麻痺しているため、何年ここで墓守をしているかも分からなくなっている。
視覚の低さも相まり、小柄な探索者を使用人と勘違いして接する。
また使用人は入れ替えが頻繁だったので、当たり前の事を聞いても話してくれる。

融通の利かなさは機械じみており、交渉技能は通じない。
城主の言いつけを淡々と守り、許可証のない者が城主の墓所へ入るのと頑なに止める。
もし攻撃されたとしても、反撃はしても墓場から離れることはない。

返答に困ることには答えないか、しつこすぎるとたしなめられる。
「そんな事まで私に聞くのではありませんよ、少しは己で考えなさいな」

探索者が使用人服を着ていれば、使用人と勘違いして問いかけてくる。
許可証なしに入ろうとすると止められ、無断で入れば危険であることも伝える。
「随分と久しぶりの掃除ですね? 仕事をするのであれば許可証をお出しなさい。」
墓所へ入るためには許可証が必要だと、従者(ヴァレット)から教えられませんでしたか?」
「入りたいのであれば、サインの入った書類を持っていらっしゃい。」
「勝手に入ると、城主様に魂を抜かれてしまいますよ。」

宝石については、墓所の中に秘されている石のことだと判断して城主の墓を指差す。
「また忘れたのかい? 最も大切な宝石は旦那様が持っていますよ。」

指輪をしている探索者が近づくと、墓守が制止させて問いかける。
「お前は城主様の匂いがするね?」
「何かものをくすねたならば、私に怒られる前に返してくおくのですよ。」
《アイデア》に成功すると<墓守は指輪から何かを嗅ぎ取ったのでは>と思いつく。


★無断で墓へ侵入する
許可なく無理に侵入すると、精神(POW)を削り取られてしまう。
POW30との対抗が発生し、負けるとSANチェックと共にPOW減少が発生する。
このPOW対抗処理は毎ラウンド発生し、負ける度にPOW減少が起こる。
墓所の土を掘り返す間も際限なく続くため、無許可で墓を暴くのは現実的ではない。

POW対抗に負けた場合の状況。
『背中から体内へ手を差し込まれ、背骨を掴み引き抜かれるような喪失感が起きた。
 精神が粟立ち不安に揺さぶられる。墓所に対する忌避感が騒いでいる。』
POW1点の減少、(1/1D6+1)の正気度喪失が発生する。

これは城主の墓標が放つ呪いであり、墓守が起こしているわけではない。
墓守は呪いを受けないよう許可を出すだけである。
もし墓守を滅ぼしたなら、呪いを受けながら墓を掘り返すしかない。

 

07:宝石と禁忌


城主の墓場から宝石を入手する際に、礼拝堂の隠し扉を開く鍵を入手できる。
隠し扉の先にある地下は、宝石の真の役割を示す情報や、脱出に必要な道具の作成が行える。
この際に作成されるものは、門番が求める【正しい成果】である。


●宝石の入手
墓守へ許可証を提出すると、彼女はスカートから小さなベルを取り出す。
彼女がベルをチリンと鳴らすと、捺印部分から小さな砂時計が一つ湧き出てきた。
墓守は「いつものサインではないようですね」と、てのひらに収まった砂時計を触っている。
「主の意図を知るべきでしょう、砂時計を墓前へお供えなさい」と探索者へ砂時計を渡す。

墓前へ砂時計を置くと、時間が逆回しされていくような光景を目にする。
墓石が移動し、土が掘り返され、棺が浮き上がって出てきたのだ。
棺を開ければ、中に遺体はない。代わりに木偶が横たわっている。
木偶の胸元には依頼品の【赤い宝石】がはめ込まれ、【奇妙な鍵】が握られている。

赤い宝石は手に取ると、持ち上げる瞬間は重いのに、手に乗せると羽のように軽い。
握り締めると異様に柔らかく零れ落ちそうなほどなのに、瞬時に個体へ戻る。
冷たくも熱くもあり、温度が常に変化してるかのようだ。
どう考えても、普通の宝石ではない。

鍵は鍵山のない奇妙な形状だ。頭がなければただの棒と勘違いしただろう。
墓守に聞けば、この鍵は礼拝堂の隠し扉の鍵だとわかる。その先に何があるかは知らない。
「長く掃除もされていないだろうから、確認ついでに見に行っておくれ」と勧められる。


▼墓守の忠告
以下は捺印が正しくとも、書類の偽造に失敗した許可証を提出すると発生しない。
宝石を入手した後、探索者たちを見送る前に墓守が忠告を伝える。

「何度も星が廻り、霜が降りしきっても、私は墓を守り続けた」
「これからもずっとその日々を過ごすと思っていたが、終わりが来たようだ」
「お前たちも仕事は忙しいだろうが……あまり時間をかけるものではないよ」
「もたもたすれば【命がいくつあっても足りませんからね】」
「死はいつだって直ぐ側に来るのだから」

以降は質問しても「無駄話はいいから早く仕事へお戻り」とたしなめられる。


 <※KP情報※>
 墓守は探索者が墓を暴いた時点で、使用人でなく外部の人間だと気づいている。
 最後の忠告は、死の神が解き放たれたことと、脱出時の対処についての警告である。

 門番へはここで入手した【赤い宝石】を見せても元に戻してくれない。
 とはいえ不正解とは言わず、正解に近づいていることを教えてくれる。
 「正しい成果の途中段階を見せに来るとは、経過報告でございますか?」

 ▼墓守の役目
 墓守は元奥方であり、使用人からは奥様と呼ばれていた。
 正確には城主が貴族として越してきた際、偽夫婦の妻役として充てがわれた使用人だ。
 墓守の仕事は城主から与えられた最後の使命である。

 使命は主が使わせた外部の使者が、墓を暴き宝石を入手することで完了する。
 主の使者であるかは、指輪によって識別される。
 仮にただの墓荒らしが宝石の存在を知ったとしても、墓場で呪い死ぬこととなるだろう。

 宝石があばかれることは、同時にこの島が終焉を向かえる合図だ。
 墓守は使命が達成された後も、墓場から離れることはない。
 己の意志で城館と共に存在を終えることを望んでいる。



●地下室
礼拝堂のパイプオルガン裏、隠し扉の穴に鍵はピッタリとはまり開けられる。
扉を開くと壁に設置された蝋燭台が連動するように灯っていく。
照らさ現れたのは、地下へと続く石の螺旋階段だ。

螺旋階段の先は石造りの地下室へ繋がっている。
ここも書斎と同じく、壁を埋め尽くす本棚が並んでいるが、中身は空っぽだ。
部屋の中央部分には、石材と色が違う赤色の石が円を描くように敷かれている。
円の直径は人間が一人立てる程度の広さしかない。

奥まった位置には簡素な机が置かれている。
机の中央には蝋封された【手紙】が置かれており、蝋封の印は指輪の紋章と同じだ。
手紙は2枚入っており、1枚目は脱出について、2枚目は城館の背景についてである。
どちらも【赤い宝石】もとい【赤い石】についての情報が書かれている。


▼赤い石の意義(手紙1枚目)
『赤い石の回収は彼の神の封印を解くことと同意であり、島は大いなる死が蔓延する。
 さりとて赤い石を用いれば、解き放たれた葬儀の神をしばし欺ける。』

『赤い石は魂の複製を可能とするが、複製できる魂はあくまで贋作物である。
 私は神による死から一時でも逃れるために、贋作の魂を身代わりとした。
 辿り着いた者へ敬意を称し、特別に魂の複製を許可するものとして、石の使用法を記す。
 生き延びたくば禁忌に触れる意志を持ち、偽りの死でもって神を欺かなければならない。』
(※魂の複製方法は次項に記載)

▼真実の一部(手紙2枚目)
『ここで働く者たちは、赤い石によって作られた存在だった。
 彼らは成長しきる前に老化がはじまり、一年と待たずに老衰してしまう。
 幾度とない死を繰り返すことによって、彼の神を引き寄せてしまったのだろう。
 対応できる手段を見つけられるまで、貴重な石を用いて島に封じ込めるしかなかった。
 私は招来者として、彼の神と縁が結ばれてしまった。この手紙は精算の宣言である。』

2枚目は読み終わると内容が消えていく。
代わりに、石の使用方法(魂の複製方法)が浮かび上がってくる。



●魂の複製
赤い石を用いて複製魂を作るためには、以下の儀式を行う。
まず地下室中央の円の中で、赤い石を持って呪文を唱える。
禁忌に触れた探索者はコストとして(1D6)正気度喪失が発生。これによる発狂はない。

呪文を唱え終わると柔らかな赤い石の中に、硬い質感が生まれだす。
赤い石へ指を挿し込めば、硬いものに触れて取り出せる。
取り出された石はビー玉程度の大きさであり、一見透明な水晶のようだが中に揺らめく色がある。
(揺らめきは光でも影でもよく、PLが思い浮かべる探索者の魂の色にすると良いだろう。)
複製魂が人によって異なる色をしていることから、使える複製魂は自分のものだけとわかる。

以下は《アイデア》や、PLが疑問に思えば情報を出せる。
<複製した魂が門番が言っていた【正しい成果】なのではないか>と思いつく。


▼残機を増やす
墓守の忠告を聞いていれば、次の予感がよぎる。
<城主は超常的な力を持っていたから、一度の死で済んだだけでは無いだろうか?>
<特別な力がない人間は、命がいくつあっても足りないかもしれない。>

探索者が追加で複製魂を作るかは任意であり、強制ではない。
複製魂は余分に作ることは可能だが、その度に(1D6)の正気度喪失を行うこと。
また作成の度に消耗を感じ、4個目からは作ろうとする度にPOWを1点減少(この数値変動は幸運へも影響)させる。
よって多くとも3個で止めるのが懸命だろう。


 <※KP情報※>
 城主は脱出の際に様々な魔術的な手段を持っていたので、複製魂は一つで済んでいる。
 墓守は探索者がただの人間とわかっていたため、城主より多く予備を持つよう忠告を加えた。
 またもたもたするほど、シノーソグリスの脅威は上がっていく。
 探索者1人が複製魂の4個目に着手するようであれば、脱出時の必要判定回数を増やすこと。
 (参照【08:解き放たれた終焉~●終焉からの脱兎】)

 

08:解き放たれた終焉


●門番の助言
複製した魂を門番へ見せれば、非礼への深い詫びとともに、探索者の時間を返上する。
ただし完全に戻るには暫くかかかるらしく、子供の姿のままで脱出しなければならない。
戻るのに時間はかかれど、島から出ることは可能になっている。
同行NPCの体を解放する前に、門番は探索者へ一つ助言をする。

「道を見失いましたら、外の使用人たちが案内してくれるでしょう。」
「今はもう、私を含めて人ではございませんが……」

門番の言葉が終わると、同行NPCも解放される。以降は門番と会話はできない。
同行NPCは乗っ取られていた間のことも覚えている。探索者からの説明は不要だ。
同行NPCは誰の制止も聞かずに「こんな廃墟はこりごりだ!」と、そそくさ脱出しようとする。
(同行NPCの複製魂を作りに行く時間の余裕はないと思ってもらいたい。)



★葬儀の神
城館の外へ出ると日差しをすっかり遮るほどの霧がかかり、島だけ夜を迎え始めたかのようだ。
一寸先は闇と言わんばかりの濃霧を掻き分け、はたと足を止めてしまう。
見逃されることが許されない、畏怖がそこにおわした。

探索者は、島の住人を殺し尽くした元凶が解放された姿を目撃する。

『はじめは、黒色の石碑がポツンとあるように見えた。
 次に、その石碑が濃霧の中でいやにハッキリと、黒々として見える異常に気付いた。
 視認できてしまったのが、ほんの僅かな一部だったことは、只人には救いでしかない。』

『ねじれている ねじれている
 あれは、存在そのものが歪曲している。
 石碑に思えた暗澹たる輪郭を波立たせ、不格好に曲がった腕を突き出している。
 命を嗅ぎ取る触肢が開き、命を摘み取る拳が握られる。
 観音菩薩めいた神々しさすら感じるほどの、永劫の時の中で繰り返されし所作。
 今それが、貴方のために行われた。』

『体の力が抜けていき、冷えた地面が近づく瞬間を見ながら意識は途絶する。
 消えゆく命は無念や後悔が、不思議と無かったことを自覚しただろう。』

葬儀の神を目撃した探索者は(1D10/1D100)の正気度喪失が発生し、即死する。
(※演出的な正気度減少なので、数値変更処理はまだ行わない)
発狂や死亡処理などを行った後、次の段階へ移行する。



●死の偽装
探索者が死から戻ると所持していた複製魂の石は霧散する。
目の前に見えた死は、今は濃霧に隠されて目視することはない。
邪神目撃という体験は複製魂が肩代わりし、目撃する前の正気度で再スタートする。
ただし死と蘇生の体験は揺るぎなく残り(1/1D4+1)SANチェックを行う。
(※このSANチェックはシノーソグリス目撃前のSAN値で行う。)
よって正気度の減少値は死と蘇生によるショック分だけとなる。

複製魂がある限り何度でも命は復活はできるが、その度に死と蘇生によるSANチェックは行われる。
ただし2度目の葬儀の神を目撃した場合、複製魂で記憶は消えても精神的負荷は取り除ききれない。
よって蘇生後、初回と同じように正気度がリセットされることはない。
また正気度が全て失われたならば、複製魂が残っていても次は蘇生しなくなる。


歓喜の死
同行NPCは複製魂を所持していないため、そのまま死亡する。
『死体は一体、何を見たのだろうか。
 命はとうに消え去りながら、魂から喜び震えた感情だけを遺骸へ遺していた。
 素晴らしさに心打たれ、死してなお涙を流す死に顔は、到底理解できるものではない。』
己の死を歓喜するような死に顔に(1/1D4)のSANチェックが発生する。
探索者から見れば、複製魂がなければ本当に死ぬとわかるだろう。



●終焉からの脱兎
入り江の岩礁まで逃げ切り、合図を出せば船が迎えに来てくれる。
船に乗って脱出できるのは、入り江の岩礁に辿り着いたものだけである。


▼探索者への目標提示
同行NPCが【ピストル型信号弾】を落としている。
探索者はコレが船頭へ合図を送る手段だと気付ける。

しかし、この場で信号弾を撃っても、濃霧に阻まれ気づいてもらえない。
探索者は船頭へ合図を送るために【島の入り江まで】濃霧の中を駆け抜けなければならない。

道すら覚束ないほど霧の中で探索者を案内をしてくれるのは、墓場にいた【幽霊犬】たちだ。
幽霊犬は鳴くことができないものの、淡い燐光を放ちながら道標となってくれる。

逃走中はシノーソグリスの姿は霧で見えず、気配は忍び歩きで絶たれている。
ただしシノーソグリスによる即死攻撃《タッチ》は無作為に行われる。

仲間が死亡して蘇生を待つ場合は、その場で待機することになる。
置いていくならば分断処理となるだろうが、指輪を持たぬ側は邪神の催眠下に陥ってしまう。


▼結末分岐
シノーソグリスからの逃走結果によって、結末は以下の分岐を起こす。
内容の詳細については【09:脱出分岐】を参照。
「結末1」・・・シノーソグリスによって完全に死亡した探索者が発生。
「結末2」・・・探索者全員が死亡、或いは【赤い宝石】を持たずに入り江から脱出。
「結末3」・・・赤い宝石を所持した探索者が入り江から脱出。


▼処理の順番
逃走が許される時間は6ラウンド。
時間内に目標数の移動をしたところで、一時的に濃霧を抜け出し入江の岩礁へ到着する。
それ以上は島の周囲まで霧で満たされてしまい、合図を出しても船頭が気付けない。

幽霊犬の発見と移動をしなければならないラウンド回数は、【探索者の人数+1】回となる。
(例:探索者2人で3回移動、3人で4回移動。難易度を上げるならば、【探索者の人数+2回】などにする。)

以下の処理は1ラウンド内で行われる順番である。詳細は後述する。
1)シノーソグリスのタッチ対象決定
2)タッチ対象の探索者は回避判定
3)探索者の目星判定
4)即死者がいる場合、蘇生が済むまで待機か移動を選択
次ラウンド開始時、複製魂を持つ即死者がいれば、蘇生処理に1ラウンド使用。
蘇生処理中のPCは移動不可。
(※分断行動をする場合は、KPは指輪の所持者に留意。)

*シノーソグリスの攻撃と探索者の回避
シノーソグリスのデータは「マレウス・モンストロルム」のP.176を参照。
孤島全体が邪神の掌の上同然な立地条件となっているため、DEXに関係なく最初に行動する。
シノーソグリスの《タッチ》の効果は自動的な死。並びに技能値100%のため、KPは対象決定だけを行う。
探索者の回避は可能、ただし回避失敗は死を意味する。
探索者は子供の姿のままなので、回避には30%のプラス修正が加えられた数値で判定できる。

*目星で幽霊犬を探す
探索者を適切な場所へ案内してくれるのは幽霊犬たちだ。
《目星》をして一人でも成功すれば道筋を示す幽霊犬を発見できて先へ進める。
全員失敗ならば、そのラウンドは前に進めず立ち往生で終わる。

*催眠に囚われる
分断行動を選択し、指輪所持者から離れた場合に起きる。
或いは、判定によって酷く悪い出目を出した場合は[POW×5]を行い、失敗した場合。
上記のことが起きたならば、シノーソグリスの影響下に入ってしまい、即座に催眠状態に陥ってしまう。
自分自身の終焉の幻視あるいは白昼夢を見続ける。
これによる正気度喪失は、催眠状態にある限りは発生しない。

*催眠状態の解除
催眠状態は、指輪から離れただけならば、指輪へ近づけば解除される。
しかし[POW×5]で陥った場合は、指輪を所持していても解除されない。
一度死亡して複製魂による蘇生をすれば、催眠状態による正気度喪失もなく、即時解除される。

催眠状態に陥った者は次ラウンドからは行動不能になり、回避も目星も行えない。
また己からシノーソグリスによる死を受け入れるため、優先的に標的対象となる。
正気の探索者がいれば、助力を受けての移動はしても良い。
 <※KP情報※>(警告の再掲)
 催眠状態を解除するために《精神分析》を行うことは推奨しない。
 シノーソグリスの影響下にある者は、精神的束縛が途絶えると同時に(1D10/1D100)の正気度喪失が発生する。

*仲間の死亡と正気度喪失
《タッチ》の回避失敗により、仲間の死亡を目撃した場合。
蘇生が判っていればSANチェックは(1/1d3)で済む。
蘇生しない仲間の死ならば(1/1d6)のSANチェックを行う。

*蘇生と待機
蘇生は「複製魂の所持」と「指輪の範囲内」であることが条件となる。
時間は1ラウンドを要し、蘇生後は(1/1D4+1)SANチェックを行う。
また、シノーソグリスは生者を優先するため、蘇生中は行動可能な探索者のみをタッチ対象とする。

行動可能な探索者が目星に成功していたならば、待機か移動を選べる。
待機の場合。目星の成功結果は、蘇生後のラウンドへ持ち越せる(目星判定の免除)。
移動を選んだ場合は別行動となり、もし指輪を持たぬ側は邪神の催眠下に陥り行動不可となる。


★脱出失敗(結末1)
孤島からの脱出に失敗し、シノーソグリスに殺された場合。
神によって死の中に安堵を感じ取りながら死亡することができる。
『救いだ 救いだ!
 何たる救済! 何たる慈悲!
 貴方の命は、掬い救われ巣食われた。
 死の神への祈りが、魂をすくう。』
死という救済に、後悔すら湧くことはないだろう。
【結末1「孤島葬送」】

★脱出描写
探索者は霧を抜け、入り江の岩礁まで辿り着いた。
合図の信号弾を上げたとはいえ、到着までは時間がかかるだろう。
「おーい」船頭の姿が見えてきたが、背後では濃い霧が迫ってきている。

再び霧に覆われ視界がぼやける中、死臭が近づいてきた。
しかし死臭がそれ以上濃くなることはなく、代わりに、幽霊犬の群れが探索者たちの背後で壁を作っていた。
一匹ずつ消えていきながら、守ってくれているらしい。

やっと船頭が到着する。
「さあ、乗りなさい」
「霧が深まっている。もたもたすれば海上で行き場も見失いかねんだろう」
船が出発する。それを追いかけるように、霧も範囲を広げていく。

姿が変わったままの探索者が乗り込んでも、船頭は驚きもしないことに気づくかも知れない。
船頭はいやに落ち着いた様子だ。

孤島から一定の距離で船を止めると、絶対的な服従を強いられる命令がされた。
「赤い宝石を出しなさい」

探索者が赤い宝石を所持していない場合は【結末2】へ。
赤い宝石を所持していれば、【結末3】の描写へ移行する。

 

09:脱出分岐


●赤い宝石を未所持(結末2)
脱出時、赤い宝石を持たずに船頭を呼んだ場合。

船頭は赤い宝石が無いことを知ると、ポツリと一言呟く。
「ならば死から逃れる術はない」と断じてしまうのだ。
その場で船放棄し、ナイフを取り出して首を掻ききって自死する。
船頭の死体は水の中へと落ち沈んでいく。
浮かんでくることも無ければ、潜って助けに行っても見つからない。

探索者は一か八か、船を動かそうと足掻いても構わない。
もし成功したならば、近くの街へ辿り着くことはできるだろう。

到着した頃には街にまで霧は充満し、住民たちが奇妙な行動をしている。
猫や犬や家畜の死骸……果ては同じ街の住民の死体を、整然と並べているのだ。
話しかけても「祈りだ」と呟くのみ。
もし精神分析に成功しようものなら、瞬間的な正気を挟み、直ぐに永久的狂気へ陥る。

やがてシノーソグリスは孤島をこえて街へも辿り着く。
人々を矢継ぎ早に葬送していく中、対象は探索者も例外ではない。
霧の中で繰り広げられる惨劇に救いがあるとすれば、神による死くらいだ。
逃げ惑いながら、死と対峙し、死を受け入れるしか無いのだろう。

探索者が全員死亡したならば、以下の状況で終わる。
孤島の最寄りの街が壊滅し、そこから更に霧が深くなっていく。
都市部では謎の伝染病として次々に死の放しが広がり、更なる呼び水となる。
葬儀の神による死の祝福がいつ終わるかは、誰にもわからない。
【結末2「横たわる祝福」】



●赤い宝石を所持(結末3)
宝石所有者が入江に到着し、船頭へ宝石が渡れば生還の道が開かれる。
もし生存者がまだ島に残っていても、助けることが可能だ。

★城館の主
探索者が赤い宝石を渡したくなかろうと、命令されるがままに船頭へ渡してしまう。
宝石を受け取った船頭は、赤い宝石を頭上へ掲げる。
船頭は人間に聞き取れないほどの早口で何かを唱えていた。

強烈な豪雨が降り出し、濃霧をかき消す勢いの土砂降りだ。
猛烈な雨粒が視界を遮られ、何が起きているのかよく視えない。
霧が深まる、雨がかき消す。霧が薄まる、雨が押し寄せる。
拮抗するように、自然現象がぶつかり合っている。
底冷えするほどの気温の低下を肌に感じる。
空気の冷えだけではない、精神的に見えてはならない光景という直感があった。
霧が薄まれば薄まるほど、死もハッキリと見えてしまうのだから。

「これ以上はお前たちの精神が保たないだろう」
船頭が呟くと、探索者は濡れた体が凍えだし、眠気に誘われ気絶する。
最後に「また会おう」と船頭の嗄れた声が聞こえた。


▼安全な目覚め
探索者は依頼主の用意した客室で目覚める。
姿(SIZ)は戻っているが、それ以外の能力値はまだ戻っていない。
今の服装は上質な寝間着だ。
寝台の横には礼服が用意されており、体型に合う上等品だ。

※残った複製魂の扱いについて
 未使用の複製魂1個につき(1D6)の正気度回復を即座に行う。
 複製魂は入るべき体がなければ直ぐに消え、持ち主の探索者へ還元される。
 (※シナリオ外に持ち出すことはできない。)


▼本当の依頼主
導入時の依頼人から、本当の依頼主のとして老人が紹介される。
老人は車椅子に座っており、付き人らしき使用人が車椅子を押している。
灰緑色のローブを深く身に纏っているため、顔は見えない。
見た目はやけに小柄で背骨が曲がったような猫背だ。
辛うじて見えている手は枯れ木のように細い。生きているのか不思議なほどに。
嗄れた声は、孤島の行き来で出会った船頭と同じものだ。

依頼人は老人の付き人からメモを渡されている。
老人は「これで君の借りは返してもらったと認めよう」と話している。

探索者の減少していた能力値は、ここで老人が即座に元に戻してくれる。
門番に減少させられた分や、墓所での呪い、複製魂を余分に作り減少したPOWも含めてだ。
拒絶するならば後遺症扱いとなり、自然回復で1ヶ月に1点ずつ各能力値が回復していく。


▼老魔術師の忠告
老人は孤島の城主であったことは明かす。
本当であれば、とっくに死んでいておかしくない年齢であり、眉唾ものだろう。
また、不思議な力がどういうものであるかや、その正体については秘匿する。
知りたがりにはあまり良い反応は示さず、好きに想像すればいいと言われる。

赤い宝石の入手依頼を達成した報酬に、色をつけた金額が探索者へは与えられる。
報酬を受け取ると、最後に老人から一つだけ忠告を言い渡される。

「封印は解かれ、彼の神の退散は叶った」
「しかし、神は隠れたにすぎない」
「平穏を謳歌するがいい。何も変わらぬ日常を、今だけは取り戻せるだろう」
「神と結ばれた縁が、いつどこで再び巡るかなど判りはしない」
「覚悟だけはしておきなさい。」


▼生還後のエピローグ
平穏な日々が帰ってきた。
探索者が殺されることも、死神を目撃するなんてこともない。
ただただ偶然、なんでもないある日に、深い霧が発生していた。
前方の不明瞭さによるものだろう、探索者の目の前で死亡事故が起きた。
死んだのは赤の他人。
事故にもその人物にも、貴方はまるで関わりがない。
しかし、貴方は見てしまうのだ、そこで死した人間の表情を。
そいつの死に顔は、孤島に同行していた案内人とそっくりだった。
死の神によって殺された、喜色満面の歓喜に溢れた、あの顔そのままだったのだ。
ただの人間からすれば、忘れたくても忘れられない、束の間の悪夢となるだろう。

神格は己を解放した探索者へ、間接的に一瞬だけ干渉する。
矮小なるものに対して、人智の及ばぬ存在が礼を言うわけでも、好奇心を抱くわけでもない。
ただ解放したことで結ばれた縁によって、刹那の邂逅を引き寄せただけだ。

探索者は神格を封印によって留めていた状態から解放した。
これは、一つの終焉の形が解放されたことにもなる。
幾星霜と続く未来が約められたことを知る時は、いつになるかはわからない。
【結末3「星霜約め」】

○クリア報酬
①孤島から脱出生還した
 (1d6)の正気度回復

②正気のまま依頼を達成できた
 (1d10)の正気度回復
 (1d4)のクトゥルフ神話技能を獲得

 

10:他の補足


●孤島の真実
孤島には紀元前の頃にシノーソグリスを崇拝する邪教の拠点があった。
彼らはシノーソグリスを崇拝し、招来に成功すると同時に全てが死に絶えている。
時間を経て邪教徒の痕跡はすっかり自然に覆われ、ただの無人島に戻っていた。
近辺には集落ができ、更に時を経て貴族のふりをした魔術師が移り住んだ。

●城館の住人たちの背景
老魔術師はその後に建てられた城館の持ち主である。
貴族のふりをして魔術の研究施設として建てられたものだ。
研究していたのは、命の作成。作っては使用人として働かせて動作確認をしていた。

しかし作った命たちはどれも短い時間しか生きられず、幾度とない死の連鎖が儀式となってシノーソグリスとの繋がりを作ってしまった。
魔術師は貴重な道具を使って一時的な封印を施し、複製魂を用いて孤島から脱出した。
自分がシノーソグリスを退散できる手段を得られるまでの時間稼ぎである。

城主が手立てを得て戻ってくるまで城を守ってもらうため、二人の人間の使用人を殺している。
墓守をしてた妻役の使用人と、門番をしてた筆頭使用人だ。
彼らを一度殺して防人のゴーストにしたてあげた。これは両者とも了解済みである。
作られた使用人たち全員を連れ出すこともできず、城の中でならば最期は好きに過ごすよう言いつけたが、最期まで従者として城の整備をしていた。

一度逃走までして再び退散しに戻ってきたのは、シノーソグリスとの縁を完全にたち切るためだ。
老魔術師は何世紀と生きているため、厄介な邪神との縁を残しておくと本来の目的に差し障りが出てしまう。よってけじめをつけるなどの使命感は微塵もない。あくまで己の目的のためである。
わざわざ使いの者を出させたのは、城主は再び城館から脱出する際に複製魂を作れるほどの余裕がなかったため。

▼シナリオタイトル余談
歳月(星霜)を約める(縮める)、星が廻り霜が降る年月の経過を縮小する。
探索者の未来と過去を縮めたことや、いつかくる終焉までの時間を早める意味合い。

▼別シナリオ関連の余談
老魔術師は拙作シナリオ「時間狂い」にも登場します。
時間に関連する事が多いため、時間にまつわるギミックを取り入れました。
なおNPCの関連はありますが、本作は上記シナリオの続編ではありません。

 

参考・引用(敬称略)


クトゥルフの呼び声 クトゥルフ神話TRPG
マレウス・モンストロルム


***ここまで読んで頂きありがとうございました。***
(2020/09/23) シナリオ制作:kanin(http://kanin-hib.hateblo.jp/
(2020/09/29) テストプレイ修正
(2021/03/03) 情報を一部修正
(2021/08/11) 再修正、シナリオ公開
(2021/09/03) 文章修正
(2021/09/15) PDF版の公開
(2021/10/15) クレジット表記の追加、内容微修正